以下の提言をエビデンスとしています。

Q.歯科のデンタル撮影やパントモ撮影で患者さんにエプロンをかける施設とかけない施設があります。患者さんの防護衣は掛けたほうが良いのでしょうか?
A.防護衣はビーム外の放射線や室内の散乱線からの線量を減らすことが期待されます。
しかし、この場合、防護衣の効果は小さく、放射線も小さいのでメリットはとても小さいと考えられます。

X線CT装置ではガントリからの散乱線が比較的大きいので積極的に利用している施設がありますが、それでも効果は限定的です。

歯科エックス線撮影における防護エプロン使用
についての指針
日本歯科放射線学会防護委員会
【はじめに】
歯科診療で一般的に行われる画像検査法は口内法エックス線撮影、パノラマ
エックス線撮影そして頭部エックス線規格撮影である。それぞれの撮影はその
撮影方法および撮影条件が異なり、患者被ばくの観点から同一に論じることは
できない。そこで、これら 3 種類の撮影法での防護エプロンの使用について個
別に指針を提示する。
なお、患者への防護エプロンの装着は、認識可能な防護手段であるため、し
ばしば論議の対象となる。しかし、患者には実際の対策として認識できない、
撮影条件の最適化等の防護エプロンより効果的で重要な防護手段が他に多くあ
ることは広く知られている。防護エプロンの使用は、他の合理的な防護手段を
講じてもなお防護の最適化の余地が残されている場合に、経済的かつ技術的要
因等を考慮した上で実施し得る被ばく低減手段のひとつと考えるべきである。
【それぞれの撮影法における防護エプロンの使用】
1.口内法エックス線撮影
口内法撮影では、フィルム(CCD、IP 等)を使用して標準的な全顎撮影を行
う場合、前歯・犬歯・小臼歯・大臼歯を 10~14 の部位に分けて撮影する。撮
影時の臓器線量は撮影部位とエックス線の照射方向(ビームの向き)によって
かなり異なる。特に、体幹部方向に照射される場合は重要臓器を含め、放射線
感受性の高い臓器が被ばくする可能性がある。したがって、照射野が十分に限
定されているとはいえ、撮影手技によっては防護エプロンを使用する意義はあ
ると考えられる。しかし、EC(European Commission、欧州委員会)のガイ
ドライン[1]では、必ず使用しなくてはならないとはされていない。防護エプロ
ンの装着は、患者の被ばく線量を低減するためというより、患者の心理面への
配慮のためと考えた方が適切である[2]。
2.パノラマエックス線撮影
パノラマエックス線撮影法は、上向き 5~10 度のスリット状のエックス線を
患者の頭部後方から入射させ、270 度程回転させて歯顎顔面部を走査し、その
展開像(総覧像、パノラマ像)を得る方法である。防護エプロンを使用しても、
実質的な患者の線量低減効果はほとんどないとされている[2]。一方、防護エプ
ロンを不適切に装着した場合、防護エプロンの像が下顎前歯部に重複し、再撮
影を余儀なくされる危険性がある。このため、防護エプロンは使用しない方が
良いと考えられている[1]。しかし、患者の心理面への配慮に基づいて装着する
場合もある。なお、いかり肩や極端に首が短い患者に対しては、防護エプロン
の装着によって撮影中にカセッテホルダが患者の肩に当たり、体動や装置の動
作停止を誘発する危険性があるため、装着の適否はより慎重に判断する必要が
ある。
3.頭部エックス線規格撮影
頭部エックス線規格撮影法は歯科矯正治療に必須の撮影法で、この撮影法で
は照射野を頭部・顎顔面部に合わせて設定する。防護エプロンの装着は、照射
野外の一部の臓器に若干の線量低減効果があるものの、患者の体内を透過する
散乱線には効果がないため、使用しなくとも特に支障はないと考えられる。
【ICRP の勧告】
放射線の利用に当たり、ICRP では 1990 年勧告(Pub. 60)、2007 年勧
告(Pub.103)で「行為の正当化」、「防護の最適化」および「個人の線量制限」
が体系化されている[3、4]。この防護体系の中で、患者の医療被ばくを低減す
るためには、まずエックス線撮影における正当化を行い、正当化された撮影に
関して最適化を行うことが患者防護の最も重要な事項と考えられる。