非抜歯矯正(非抜歯拡大矯正)をするとどうなるか?

抜歯矯正と非抜歯矯正

矯正と言えば第一小臼歯を抜くもの、というのが通り相場ですが

小臼歯抜歯がうまく行かないと言う事は患者さんの間でも知れ渡り始めているようで

最近では非抜歯を売り物にしている矯正も増えてきました。

また矯正専門医でも趣旨を曲げ非抜歯を謳わないと食えないところもあるようで非抜歯矯正に手を付けているところもあるようです。

ところでなんで私が「非抜歯矯正」と他人事のように言うかというと私の「機能矯正」は抜歯矯正でも非抜歯矯正でもない第三の道だからです。

 

抜歯矯正で不具合が起こるわけ

さて以前の記事で抜歯矯正を日本人に適応するとどうなるかは詳細に述べました。

 

4番抜歯がすべて悪いわけではなくきちんとした検査に基づけば適応があり適応に基づけばうまく行くのです。なぜうまく行かないかについてはすでに述べていますがおさらいをすれば4番を抜いてうまく行くのは基底となる顎骨の成長が正常で歯の大きさだけが大きい場合です。ところが日本人の不正咬合はほとんどの場合顎骨の成長不全によって発生しているのです。

つまりただでさえ小さい顎骨をさらに小さくすれば歯は並んだとしても全体としてのバランスは崩れてしまいますしなにより最も大事な気道の位置的な確保をはじめとする呼吸機能の障害が発生します。

また高率に顎関節症も発症します。

いま呼吸機能と申しましたが

呼吸機能が正常に作用するにはまず舌の位置が正しくなければなりません。

舌の上には鼻の中の空洞、鼻腔がありの奥の上顎洞があります。

舌がきちんと顎の中に納まっていると言う事は鼻腔も上顎洞も正しい大きさを確保していると言う事になります。4を抜いて上顎を縮めてしまい舌が上顎に納まらなくなれば

この呼吸に関する器官の物理的大きさも小さくなり空気が通りにくくなります。

また舌が後方に押しやられるために閉口状態では気道がつぶれてしまい空気が通らないために口呼吸の傾向が強くなります。

舌が正しい位置に行き上顎がしっかりした大きさを確保し鼻腔や上顎洞も正しい大きさが確保できれば鼻からの空気の通りがよくなり、また舌がしっかり前方位を取れるため気道がしっかり広がり正しい鼻呼吸ができるようになります。

歯並びもこのように治せば後戻りも少なくなり多少乱れたとしてもれ気にならい程度となります。

機能の不全を残したままでワイヤーではを並べたとしても外せばあっというまに乱れてしまいます。当院ではアライナー矯正で抜歯矯正後の後戻りの治療をすることが多いですがたいていはミューチュアリープロテクテッドオクルージョンすなわち個々の歯が咬みあわせにより位置的に安定しあい保護しあうと言う関係は構築できず永続的なリテーナーの使用をお願いすることが多いです

非抜歯矯正とは

さてこのように4番抜歯は適応を誤ると重篤な副反応を引き起こすわけですが

非抜歯矯正と呼ばれている技法ではどうでしょうか。

非抜歯矯正で思い出すのは一昔前に一世を風靡したデーモンブラケットです。

基本的にデーモンはローフリクションと呼ばれる種類のブラケットで

デーモンブラケットに所定のワイヤーをセットすると歯列が拡大していくように設計されています。

またその前処置として第一大臼歯の遠心移動(後ろに送り込む事)を行います。

歯を並べるためのスペースを確保するために第一大臼歯を後ろに押し込むのです。

すると確かに4抜歯しなくても歯はきれいに並びます。

非抜歯矯正で不具合が起こるわけ

では何がだめなのか?

 

実はこの方法も上顎骨が充分に大きければ有効な方法です。

しかしながら一般的な日本人は(最近日本人と言うくくりがあいまいになっているのでこの言い方も適切とは言い切れませんが)上顎骨が小さいとお話ししました。

小さい上顎骨を抜歯で小さくすればおかしくなるというのは理解しやすいと思います。

小さい上顎骨の帳尻を合わせるために後ろ側にギュッと押し込めたとしたら?

上顎の後ろ側には神経や血管、それに呼吸に大切な気道が入っています。

前方にスペースが有り余っているならともかくそもそも小さな上顎に合わせて第一大臼歯を後ろに押し込むのだから重要器官の詰まっている後ろ側が大渋滞を起こして大変なことになってしまいます。

しかも4抜歯の場合に比べて不具合がわかりにくい。

偏頭痛がするとか、なんとなく体調が悪いとか、何故かわからないが表情が不自然とか。よくよく問診してみると非抜歯で矯正していたということがあります。

とてもよく起こるのは第二大臼歯の萌出不全です。

すべての歯がきちんと並ぶのが治療の一つのゴールなのですが

もともと小さすぎているところに第一大臼歯が押し込まれてくるのだから

第二大臼歯はたまったものではありません。

埋伏をしたり生える場所が無くて横向きになってしまったりします。

私が第一大臼歯の後方移動をしたケースでいちばん気になるのは

歯列が不自然に横に広くなりどうゆうわけだか

カッパのような顔になることです。

正しい診断こそすべて

この原稿を書いている時のことですが

タレントの堀ちえみさんの舌癌のニュースが伝えられました。

ほりさんは難治性の口内炎を訴え数か月におよびかかりつけ歯科医に通っていたそうですが難治性の口内炎はまず癌を疑うという診断の初歩を知らない歯科医のために治療好機を逸しステージ4、つまり末期がんと言われる段階まで進行してしまいました。

まだまだ治療の可能性は残されているとは言うものの

もっと早く専門医の診断と早期の治療ができていれば・・

と自分のテリトリーで起こったことに対してとても悔しく思います。

なにより堀さんの一日も早い回復を願ってやみません。

 

言いたいとは正しい診断ができなければ時に命にかかわる重大事となるということです。

 

また矯正治療のように長期間と多額の費用のかかる治療の場合

もし間違った結果を出してしまえば少なくとも治療にかかった時間を取り戻すことはできない、ということです。

4抜歯にせよ非抜歯矯正にせよ適応を見極められれば良い結果を出すことのできる治療法です。

しかしながら当院には矯正治療の不具合を訴えてお出でになる患者さんが後を絶ちません。

正解は診断の中にこそあり

まず治療法ありきではうまく行くか行かないかはギャンブルになるということです。

 

どうもおかしいとか納得が行かないと思われる方がいらっしゃいましたら早くお出で下さい。

ご相談お承りいたします。