「保存修復」が基本だからできる当院独自の歯科矯正:院長の学生時代

今日は私が歯科医になったころの話をしたいと思います。
私は機能矯正を長年やっていますが矯正専門医ではありません。
ですが自分でいうのもなんですが矯正歯科は得意としています。

私は矯正治療の臨床を始める前に歯医者の基本ともいえる虫歯をしっかり直し、ブリッジをしっかり入れて良く咬める入れ歯をたくさん作り、歯医者の地力を鍛え、経験を踏まえた上で歯科治療の一環として矯正治療の技術を習得しました。

そこで今回は私の「「保存修復」が基本だからできる当院独自の歯科矯正:院長の学生時代より」についてお話させていただければと思います。

院長の大学時代の研究・研修

私は卒業してすぐ大学では「保存修復科」と言うところに在籍していました。
保存修復と言うのは虫歯の治療を専門に研究する科です。

虫歯の治療と言うと歯医者なら当たり前の技術と思われるかと思いますが、まず当たり前のことがしっかりできることがいい歯科医への第一歩だろうと考えこの科に入局しました。

歯の削り方の習得

「歯医者は歯を削るところ」というイメージをもっている方は多いと思いますが、ただやみくもに削っているわけではありません。

まず虫歯でだめになってしまった歯をきれいにし、下地を整えてから歯をきちんと修復できるように形を整えます。

初段階では基本形態があり、アンダーカットなく外開きにすること、幅は歯の幅の1/3以下にすること、窩洞(削った穴)全体の形を鳩尾形に(なだらかな曲線の連続)することなどを意識した上で様々な原則に従って歯を彫刻のように形成していきます。

石膏模型での技術取得と実践

研修では最初からなかなかできるものではありませんので、最初は4倍の大きさの石膏模型で練習をします。
石膏模型も石膏の塊を作って自分で彫刻して作りました。

研修を元にイメージを完全に頭に入れてから実際に患者さんの口の中で実践を行います。
頭でわかっていても実際口の中で削ろうとすると、見える角度が限られ多くの死角があり、何より口の中は狭く入口が一か所で、患者さんによって口の開け方もまちまちですから簡単にできるものではありません。

皆さんの嫌いな切削器具ですが、口の中に真っ直ぐ入れるというのは至難の業なんですね。

「どうしても斜めに傾いてしまう。」
「真っ直ぐ削ったつもりの歯が印象(型)を取って石膏を流して模型にしてみるとゆがんでいる。」
「ゆがんでいるときちんと詰められない。」

いろいろな問題を経験した上で徐々に補正を入れて器具を入れる角度を研究していきました。

器具を入れる角度の研究

上の歯とか奥歯の向こう側は見えないから鏡を使って見る。
ところが鏡を使うと反対に映りますから手も逆に動かさないといけない。
これがまたまた難しい。

最初のうちは何が何だかわからず時間が過ぎていくような毎日だった気がします。
頑張れば慣れるもので1、2年すると何ともなくなってきます。
今では「ほとんど何も考えなくてできる」ようになっています。
「いつまでたってもできない」といわれる技術でもあります。

接着技術

さてこの当時もっとも重要な保存修復の研究課題が「接着」でした。

今でこそ歯科治療は接着なしには語れないほどポピュラーな技術になっていますが、私が歯科医師免許を取ったころは「歯に物は接着できない」と公然と大学の授業で語られるほど口の中で接着操作をすると言うのは困難な技術でした。

まず口の中は常時湿っています。
当然歯の表面も湿っています。

歯はエナメル質と象牙質という特性の異なった二つの成分から構成されています。
エナメル質は歯の表面を作っている成分で人間の体の中で最も硬い成分です。
96%は無機質で残りが水と有機質です。

モース硬度と呼ばれる硬さの指標が7と言われ硬さだけでは水晶並みです。
ダイヤモンドのモース硬度が10ですからその方さが分かると思います。

象牙質はエナメル質と全く特性が異なります。
モース硬度は5~6でやや柔らかく70%が無機質[ヒドロキシアパタイト)、20%が有機物(膠原繊維(コラーゲン繊維)と非膠原性タンパク質)、10%が水分です。

長い間歯を接着から遠避していたのはこの象牙質に含まれる水分とコラーゲンでした。
またコラーゲンは歯髄と交通しており、強引にコラーゲンに接着しようとすると歯髄が死んでしまい医原性のトラブルを引き起こすことでも知られていました。

クラレクリアフィルについて

この歯への接着と言う難関を最初に実用的に突破したのは日本のクラレクリアフィルという製品です。
ちょうど私が大学を卒業したころに発売されたクリアフィルは、その当時の保存修復には欠かせない画期的な充填剤として広く使われていました。

クリアフィルの接着様式は初期の製品ではエナメル質だけに接着するものでした。
エナメル質と言うのは均一に表面から垂直方向に構造線が入っており、この構造線をリン酸で溶かしできた細かい線(エナメルタグ)の間にBisGMAというサラサラのレジンを流し込みその上に本体のレジンをとめます。

このリン酸ではの表面を溶かす技術をエッチングといい、時間の管理がとても難しく短すぎると効かないが長すぎるとエナメル質が全部溶けてしまうという厄介な物です。

また象牙質はエッチング剤を長く作用させると無機成分がすべて溶けてしまい柔らかい有機成分だけが残る形となり修復操作を失敗させる原因となったりしました。

ですから初期型のクリアフィルはテクニックエラーに敏感でうまく行ったものはいつまでもきれいだけどちょっと何かがうまくなかったものはすぐに変色したり取れてしまったりするという代物でした。

今は改良が重ねられ、エナメル質にしか接着しなかったものがむしろ象牙質に強く接着するようになり、格段に耐久性も審美性も向上しています。

当時は現場と研究者が必死に開発したものが今臨床現場で活躍していると思うと少しうれしかったりします。
その創世記に臨床に入れたという事を自分的には誇りに思っています。

今までの経験をいかした歯科矯正

接着と言うと今の矯正治療には接着は欠かせない技術です。
今の矯正治療は接着なくしては成り立ちません。

マルチブラケットしかり、舌側矯正しかり、保存を歯科医人生のとっつきに選んだのは大正解だったと日々臨床を重ねながら思う事久しいです。

矯正治療も同じだと思いますが、まずしっかり正しい方向を見据えて、一歩一歩進んでいくことがうまく行くコツなんじゃないかと思っています。

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